今から5年以上前だろうか。「年収2000万円未満の貧乏人はお断りのローストビーフ」が販売されたことがある。売り出したのは熊本のレストラン、KAWAZOEの川添賀一シェフ。
当然の流れというか、あっという間に大炎上し、サイトは閉鎖されてしまった。今はWayBackでしか見られないそのページは、たしかにかなりアグレッシブだ。
日本一高い!と銘打たれたローストビーフは1キロで5万円以上。年収2000万円以上ある経済的・精神的に裕福な人を対象としているので、それに満たない貧乏人はサイトを見るなとまで冒頭に書いてある。
さらになぜこのローストビーフが年収2000万円以上の人向けで、貧乏人はお断りなのかというと、貧乏人は①化学調味料などで舌の感覚が麻痺している②値段だけでしか物の価値を計れない③見当違いなクレームを言ってきそうだと、もう踏んだり蹴ったりである。これでは多くの人の反感を買うのはやむを得ない。
マーケティングの視点で考えてみる
しかし、ただ「不快だ」「良くない」と言うだけでは学びはない。拒絶反応を示すだけでなく、もう少し分析してみると判ることも多い。
ちなみに川添シェフだが、経歴は相応に見える。18歳から料理人となり、40か国近い世界を回り、様々な料理を経験。クリントン元大統領、マイケル・ジャクソン、ブラッド・ピッドなどの著名人に料理を提供したという。彼のレストランKAWAZOEは、ミシュランプレートにも載っている(ビブグルマンではないので星は獲っていない)。
なぜこんな挑戦的なページを用意したかというと、地元熊本の「赤牛」のPRのためだったとのこと。炎上マーケティングを狙ったかは不明だが、良くも悪くもサイトは知れ渡ったものの、結局ほぼ全く売れなかったそうだ。
「年収2000万円未満はお断りのローストビーフ」のLPは、構成は間違っていない
内容はさておき、こちらの「年収2000万円未満はお断りのローストビーフ」のLP(ランディングページ)だが、少し前の手法とはいえ、構成は間違っていない。というか定石通りだ。代理店も頑張ったのだろう。
まずページ上部にインパクトのある商材写真を置き、「日本一高い!」と派手なキャッチコピーで注目させる。その下に「年収2千万円以上の選ばれし者のみに」と、ターゲットユーザーを明確化。
ページ中段から「年収2000万円以上の裕福な方のみ」読むよう誘導。より購入しそうなユーザーを絞り込み、この店のローストビーフが高い理由付けを列挙する。その下に本人の経歴と、有名人にも料理を提供した経験を掲載し、権威付けを行う。最後に、だから高くて当然、貧乏人は買うなと書いて、購入フォームへ進ませる。若干情報商材のページのようだが、構成はセオリーを守っている。
富裕層マーケティング
しかし、結局このページでは商品は売れなかった。ここまで露骨に年収の要件や貧乏人は買うなと書いてしまっては、さすがに炎上しかしないだろう。
流通サイドが頑張ったおかげだとは思うが、現在赤牛は都内のレストランなどで普通に食べられる。また、ローストビーフは安価ではないかもしれないが、飛びぬけて高級というレベルの料理でもない。鎌倉山やロウリーズなどのメジャー店でも1万円程度からメニューがあるし、商材とセールス方法のミスマッチは否めない。さらにブランド和牛のローストビーフは様々な通販サイトでも売られており、今回のような値段のものはない。
» お肉の贈り物【肉贈】
:松坂牛や神戸牛が通販で購入できる。法人メニューもあり。
» ミートマイチク
:但馬牛のローストビーフがある。
» さかの
:米沢牛の専門店。
富裕層に売る方が良い理由
ただ、一つ正しいことがある。このサイトのPRは大失敗だったかもしれないが、「富裕層に物を売りたい」というのは正しい視点なのだ。
例えば、3000万円の売上を上げたいとしよう。その際に、1個100万円の商材を30個売るか、1個1000円の商材を3万個売るか、どちらが難しいかというと、これは圧倒的に後者なのだ。そして、前者の方が少人数でもビジネスを回せる。これは大切なポイントだ。
1000円の商材となると、これは耐久消費財に近くなる。様々な人が購入するうえに、個数も1 万個と多いので、物品であれば流通経路の確保や在庫の管理が必要になる。また、客数が多くなるため、問い合わせへの対応やサポート体制も必要だ。
しかし、1個100万円の商材の場合、個人で購入するなら富裕層しかいない。何より販売数が少なくて済むので、小さな組織でも運営できる。何を売るかは徹底的に考える必要があるが、高付加価値サービスとするならば、納得させるだけの価値を提供できれば、買う富裕層は必ずいる。そして富裕層は納得さえしていればクレーマーにもならない。サポートは必要になるだろうが、膨大な人員を用意するレベルではない。
もう一度思い返してほしい。「年収2000万円の起業」で述べたとおり、とにかく自分でビジネスを興すなら、利幅が大きく、固定費のかからないものを選ばなくてはならない。例に示した100万円の高付加価値サービスはそれに該当する。つまり、経営が安定しやすいのだ。これが富裕層に商材を売った方が良い理由である。
ただし、富裕層に気に入られるためには、かなり念入りにプランニングする必要はある。彼らは目が肥えており、納得しなければ購入はしてもらえない。趣向も人によって多種多様だ。しかし、それをクリアできれば、あなたのビジネスは発展する。
ぜひ、富裕層に何を売るかをあなたも考えてみて欲しい。富裕層はどんな人たちで、何を好み、そして100万円の商材は何で、どうやって彼らに訴求し、購入してもらい、ファンになってもらうか?これはあなたが商売を行ううえで、きっと有益なトレーニングになるはずである。